労務対策にも役に立つ

高度成長の一瞬には、小企業から大企業にはいのばれるチャンスもあったが、造船不況下に典型的にみられたように、むしろ大企業から小企業へと転落していくものが多くなってきた。もちろん、そのなかには、自動車工場の労働者のように、息の詰まるような合理化に耐え切れず、収人が下がったにしても、小企業の「自由」にあこがれるものもふくまれていたりするのだが自動車工場での離職者の多発は、ついこのあいだまで常識だったのだが、オイルショックの後ではすこしおさまっている。

しかし、それは労働強化が緩和されたということではない。むしろコンベアのスピードアップはいまなおつづき、「あらゆるムダの排除」の叫びは、国際競争の「全面戦争」時代を迎えて、さらにカン高くなっているほどである。それでも、労働密度がさらに高くなったにしても、トヨタの労慟者のいうシャバ」の景気が厳しければ、農村に帰る長男や、身体や神経を侵されて脱落するものを除いて、たいがいはコンベアにしがみついて暮らしている。

もうひとつあらたな理由は持家制度である。トヨタ自工の自慢は、世帯もち労働者の七割が持家に住んでいる、ということである。この数字は、同社の広報課が流す住宅分譲の記事として、各紙に登場している。日本一高収益会社の労働者が、いかに恵まれているか、それをこの数字か物語ることになる。「トヨタ自工が従業員の持家制度を発足させてまる一七年。いまでは世帯持ちの七割近くがマイホームを持っているという。従業員の雇用定着対策の意味もあるとはいえ、同社の持家の平均年齢は三二歳。一般のサラリーマンにとってば、全くうらやましい話」(「中日新聞」一九八一年二月二日付)