ドレフノフスキー方式とよばれる方法

ドレフノフスキー方式とよばれるこの方法は、福祉の限界点と到達点の二基準点を設定し、現実の水準が二つの基準点の間のどこにあるかによって、得点を算定する方法をとった。この方法をとり入れた、東京都と東京大学富永研究室によって行われた『二基準点方式による福祉指標作成のこころみ』(一九七二)は、福祉の分野を十に分類し(所得・消費、健康、住生活、労働、余暇、教育、連帯、交通通信、安全、自然環境)、それを、個人生活、生活環境、公共部門の三つの視点から百八十項目を立てて評価している。その目的は、GNP至上主義を批判し、それと同時に欲望の種類を体系的に分類して、生活の福祉水準を高めるために国および地方自治体がどのような政策をとればよいかを示唆しようとするものであった。

経済成長に伴う環境破壊や公害や通勤事情の悪化や交通事故など、反福祉的な要素に対して、アメリカの有名な統計学者、アーヴィングーフィツシャーは、「産業活動のおかげで自然破壊が生じることは、台所を広げて庭をつぶすにひとしい」と言ったが、それらの反福祉的要素と福祉的要素をさし引きする試みを行ったのが、A・W・ザメッツである(『社会変化の指標』ラッセルーセージ財団、一九六八)。ザメッツは一九六八年から七六年に至る変化を「福祉的GNP」として試算したが、この考えを参考にして日本で作られたのがNNW(ネットーナショナルーウェルフェア)である。

NNWは、六項目のプラス項目と、三項目のマイナス項目を、価格に換算して、一九五五年から七〇年まで、五年おきに算定している。たとえば余暇時間や個人耐久消費財サービスや市場外活動はプラスの項目に、環境汚染や環境維持経費はマイナスの項目に分類された。このうち、マイナス指標がとくに不十分であると批判されているが、これらの指標は経済企画庁の「国民生活指標」(NSI)として再度見直され、諸外国との比較も行われて、改善の作業がつづけられている。

経済審議会、NNW開発委員会『NNW開発委員会報告新しい福祉指標NNW』一九七三以上、生活水準の評価にかんしての簡単なスケッチを試みたが、豊かさに対して人びとが、モノとカネだけでなくどのように多面的に考えてきたかがうかがわれる。包括的な豊かさの測定と言ってもよい生活水準論の中に、私たちが、豊かさについて考えなければならない、多くの示唆が含まれている。

物的な、あるいはおかねの分量だけでなく、生活の自立や自由、創造的活動、地域社会での連帯や人権、自然環境も含めて、私たちは、それらを、豊かさの重要な要素として考えなければならなくなった。豊かさは、それぞれの個人の生き方の問題であると同時に、社会や政治の問題ときり離すことができないことがあきらかになった。今日もなお、貧富の格差は厳然としてある。しかしその一方で、豊かな人と貧しい人を分けることは、それほど簡単ではなくなってきた。