WTI市場、活況続く

原油先物市場の活況が続いている。世界的な指標原油であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の売買高は今月、過去最高を更新する見通しだ。年初に急落した相場とは無関係に、市場への資金流入は勢いが増している。

ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のWTI原油は年初から1バレル10ドル程度下落した。「暖冬などで石油製品や原油の需給が緩んだことが背景」というのが一般的な説明だ。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に基づく説明としては間違いない。しかし、年初から急落した理由付けとしては説得力に乏しい感がある。暖冬は昨年末から言われていたことだからだ。

WTIは昨年末まで3カ月間、ほどほとんど値動きがなかった。そこで困ったのがファンドだ。値上がりにしろ値下がりにしろ、どちらかの方向性が出ないことには収益を上げられないからだ。市場には「年初から割高な原油を売り、天候に左右されやすい天然ガスを買ったファンドがあった」(外資系証券)との指摘があった。一部のファンドが売りに出たところを好機と見た他のファンドが追随、相場の下げに拍車がかかったようだ。

下げ局面では新たな買いも入った。「年初からインデックス・ファンドの買いが入っていた」との指摘もある。ゴールドマン・サックス商品指数やダウ・ジョーンズAIG商品指数などに運用成績が連動するファンドで、年金基金などが資金を投入している。「資産分散」を目的にした原油市場への資金流入はいまだに衰えていない。

WTIが1バレル50ドル近辺まで下がると、今まで買いを手控えてきた実需の資金も入りやすくなった。市場に強弱両面の思惑が交錯した結果、売買高が急速に増えた。

NYMEXでは初めて1日の売買高が最高80万枚を超えるなど、最近の平均売買高は1日約40万枚に達する。昨年WTIを上場したICEフューチャーズも同20万枚。いずれも過去最高ペースとなっている。WTIは1枚=1000バレルなので、両取引所を合計した売買高は1日約6億バレル。日量8000万バレル強の世界需要を7倍以上上回る取引が行われていることになる。

値動きの大きさに加え、両取引所が進めてきた取引の電子化も影響している。ICEフューチャーズは昨年4月、電子取引市場にWTIを上場した。NYMEXは6月からシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の電子取引システムを利用し始めた。「多様な顧客を取り込める」(NYMEX)とみた電子化の拡大が奏功した格好だ。

市場流動性の拡大は日本の石油需要家にも恩恵がありそうだ。石油製品のヘッジ(保険つなぎ)にWTI原油市場を使うケースが多いからだ。WTIの流動性が高まれば、それだけヘッジしやすくなる。もっとも「ヘッジに使える円建て市場があればそれにこしたことはない」というのが多くの石油需要家の本音ではあるが・・・。