外資系ファンドの下で再建を進める

黒字転換をまだ実現できない銀行は、預金を集め運用する既存の銀行に近い業務が比較的大きいことが特徴です。これが示唆するのは、ネットワークやターゲットとする顧客に特色があっても、提供するサービスが金融の世界にとどまっていると、現在の環境では限界が生じる可能性があることです。最大の問題は、ゼロ金利政策の長期化にあります。一般的なインターネット専業銀行は、低コスト運営が売り物です。店舗を必要としないことはもちろん、集めた預金は審査や管理など手間のかかる貸出ではなく、債券や証券化商品などの運用がメインのため多くの従業員を必要としません。その分、通常は預金金利を高くできることが利用者にとっての魅力の源泉となります。

しかし、ゼロ金利の現在、国内には低金利の運用先しかありません。普通の銀行との差を生み出すような高い利ザヤは望めません。預金金利を上げる余地がないばかりか、上げるとシステムの運営コストすら賄えない状況も起こりえます。しかも、日常的にサイバー攻撃にさらされ、システム開発を常に続ける必要があり、コストの減少には一定の限界があります。先行した米国では、二〇〇〇年頃にインターネット専業銀行の撤退が相次いだ時期がありました。親銀行と似た商品やサービス内容だったり、顧客獲得のために広告宣伝費をかけたため、没個性的になったり低コスト運営を自ら放棄したためです。最近は、顧客のインターネット銀行への認知度も高まり定着はしましたが、圧倒的な成功を収めたケースは今のところありません。

新規参入を成功させるには、とにかく顧客を増やし規模の利益を実現することです。業務の実績がなく認知度の低い新規参入銀行は、顧客を効率的に引きつける仕掛けが必要です。インターネットバンキングの世界で言えば、キーワードは「ついで」です。具体的には、オークションやチケット購入などを目的にウェブサイトにアクセスした「ついで」に、銀行のアイコンをクリックし、決済サービスなどを利用してもらうことです。「ついで」を何度も繰り返すリピーターを増やすことが必要です。つまり、利用者の動機付けを行い顧客化することが不可欠です。

金利だけを売り物にするというのは、安定した顧客層の形成につながらない可能性があります。インターネットの長所は、短所にもなります。ウェブサイト上で銀行間の金利比較がたやすくできるため、金利選好意識が高く、銀行を簡単に乗り換える足の速い預金者が多くなることも特徴です。特に、低コスト運営の利点が預金金利などに生かされず、安定した顧客数の増加が困難な状況が続く間は、金利以外の付加価値を付ける必要があります。新規参入銀行は組織が小さいことを利点にしなければなりません。中小企業の分野で新しい金融サービスを創造することを目的に設立された、日本振興銀行新銀行東京ですが、設立構想時から環境が大きく変わりました。

大手銀行は、不良債権処理にメドをつけたため、貸し渋るどころか企業規模は問わず積極的な貸出攻勢に転じています。インターネット銀行よりも普通の銀行に近い両行が、提携など今後どのような戦略を打ち出し、環境変化に対応するのか、メガバンクもさることながらその動向から目が離せません。また、新規参入銀行ではありませんが、破綻を経て外資系ファンドの下で再建を進めた、再生銀行も存在感を高めています。特に新生銀行は、二〇〇四年二月に株式の再上場を果たしました。あおぞら銀行東京スター銀行にも共通しますが、経営陣に外国人を置き、小回りのきく組織を生かし独自のユニークな商品や店舗展開を進めています。金融危機を経て、メガバンクとは一線を画した銀行が誕生しており、日本の銀行界に多くの役者が揃うようになりました。