「質から量」への転換

より周到なのは、三菱東京フィナンシャルーグループが持つUFJ銀行の優先株に約四〇%の議決権が発生する条件を設けました。UFJホールディングスの三分の一を超える株式保有者の出現や、公開買い付けに対する投資家の応募が二〇%を超えた場合が、該当します。第三に、三菱東京フィナンシャルーグループが出資した優先株を一二倍の価格で売却できる権利です。前記の条件だけでなく、UFJホールディングス側において、三菱東京フィナンシャルーグループとの統合の撤回、株主総会で統合が二度否決されたり他社との統合を承認した場合が条件となります。UFJホールディングスや新たな統合相手は、高い価格で買い取らなければなりません。

UFJホールディングスをめぐる顛末は、住友信託銀行に対しては二〇〇四年八月に最高裁が抗告を棄却したことで、UFJホールディングスに対する1000億円の賠償請求に切り替わりました。三井住友フィナンシャルグループも、メガバンクの中でも比較的不良債権比率の高かった同行に対する金融庁検査の影響もあり、二〇〇五年三月期の連結最終損益が二三四二億円の赤字となるなど、財務的な余力が低下したこともあり、二〇〇五年二月にUFJホールディングスに対する統合提案を取り下げました。UFJホールディングスをめぐる統合劇が残した教訓は、小さくありません。その後、フジテレビーニッポン放送ライブドアで繰り広げられた買収劇と法廷闘争、そして最近の株式発行枠の拡大など企業経営の憲法ともいえる定款変更による買収対抗策などが起こっています。

三菱UFJフィナンシャルーグループの誕生の過程は、日本でも本格的な幕開けを迎えたM&A時代の先駆けとなりました。さらに、金融再編には常に強者と弱者が存在し、単独路線の限界を認識させる何らかの状況に追い込まれることが、そのきっかけとなることを再認識させる結果となりました。銀行は変革が遅いと批判を浴びることが多いのですが、意外にも産業界よりも変化が一足早く、銀行は経済動向の先行指標となるケースが少なくないことを示したことになります。三菱東京フィナンシヤルーグループとUFJホールディングスの統合が示唆するのは、銀行が資産内容など質を重視せざるをえなかった経営から、将来の成長を意識した量と収益の拡大を目指す経営に転換したことです。

三菱UFJフィナンシヤルーグループが目指す数値目標は、三菱東京フィナンシャルーグループ単独の時と比べさらに、意欲的です。連結営業純益を二〇〇五年三月期約一兆七一〇〇億円から二〇〇九年三月期には四六%増の約二・五兆円、連結当期利益を同ニニ八一億円の赤字から同一兆円の黒字へと大幅な改善を目指しています。さらに、三菱東京フィナンシャルーグループ単独で一〇%程度にとどまるROE、つまり自己資本利益率は同一七%と、欧米の銀行と比べて遜色のない水準への引き上げを狙っています。そして到達目標である時価総額ではグローバルの金融機関の中でトップ5入りを目指します。

統合後は二〇〇九年三月期までに人件費の面では約六〇〇〇人の削減、約四〇〇〇人の戦略・営業分野への再配置を実施、物件費の面では国内のリテール店約一七〇、法人店約一〇〇、海外店三〇の統廃合を進める計画となっています。結果として、二〇〇九年三月期に発生するコスト削減効果は年間二四〇〇億円を見込んでいます。しかし、統合の初期段階ではマイナス面が先行します。UFJホールディングスの不良債権処理は峠を越えましたが、それでも二〇〇五年三月期末の不良債権比率は四%、中核自己資本のTier1に占める繰り延べ税金資産の比率は四七・二%と、メガバンクの中でも高い水準にあります。三菱東京フィナンシャルーグループから見ると、統合後は財務面では優良行から普通の銀行になるかもしれません。