金融を変えた住宅ローンの証券化

もう一つの例として、図表で示すA社とB社を考えよう。この場合、将来の金利低下を予想したA社がB社と金利スワップを行うと、A社は望み通り固定から変動への乗り換えに成功する。またB社は、五%固定金利借入と六%固定金利貸出で、一%の利益を確定することができる。両社にとって″ツィンクィンタの契約だが、一つ注意しなくてはならないことがある。この契約期間中にA社が倒産すると、A社に移転したはずの変動金利一〇〇億円分を、B社が支払わされることである(スワップはA社とB社の間の契約であって、A社にお金を貸していた会社とは無関係である)。したがって金利スワップを行う際には、相手企業の信用リスク(倒産リスク)を知ることが必要となる。

変動金利契約を結べば、金利変動に伴うリスクを避けることができる。しかし、おカネを貸す側のリスクは、それ以外にもある。一つは、客が失業などで借金を返済できなくなる「デフォルトーリスク」、もう一つは客が満期前に借金を返済する「満期前繰上返済リスク」である。そこで考え出されたのが、ローンの「証券化」である。銀行が証券会社(投資銀行)に委託してローンを小口の債券に組み替え、これを市場で販売してリスクを投資家に転嫁するという。賢い々方法である。たとえば、一〇年固定金利三・六%の住宅ローン一○○億円を貸し出した銀行の委託を受けた証券会社が、額面一万円、満期一〇年の債券一〇〇万枚として、市場で売り出すのである。

債券の購入者には、半年ごとに一定のクーポンが支払われる。この際問題となるのは、デフォルトーリスクと満期前繰上返済リスクの評価である。デフォルトーリスクについては(貸出しの際にきちんと審査をしておけば)ある程度推計可能だが、難しいのは満期前繰上返済リスクであ借り手の繰上返済は、貸し手側にとっては痛手である。なぜなら、一〇年にわたって三・六%の金利収入が得られるはずのところ、突然、その収入が消えてしまうからである。一方、証券化して売ってしまった分に対しては、一〇年にわたって約束したクーポンを払わなくてはならない。したがって、繰上返済された元金を再び運用することが必要となるが、このとき市場金利が三・六%より低くなっていれば、これを上回る水準で運用するのは容易でない。

これらのリスクを逃れるために考案され、アメリカで爆発的に普及したのが、パススルー・モゲージ(住宅ローン)担保証券である。これは、利率三・六%の一〇年もの固定金利住宅ローンーOO億円を貸し出した銀行が、証券会社経由で元本一万円の債券一〇〇万枚として市場で販売したあと、ローンから得られるキャッシュフローから手数料を差し引いて、その残りすべてを投資家に均等に払い戻すというやり方である。元利均等返済方式の場合、繰上返済がなければ、毎年の返済金から手数料を引いた金額が投資家に支払われる。

一方、一年目に元本の五億円分が繰上返済された場合には、その時点で証券一枚当たり五〇〇円を投資家に払い戻し、元本の残高から五〇〇円を差し引いた元本に対する返済金だけが支払われる。こうすれば銀行は、貸出に伴うリスクを全く負担せずに、確実に手数料を手に入れることができるというわけである。収入が安定しないこのような証券には、魅力を感じない人も多いだろう。そこで多様な投資家の存在を想定して、さらに手の込んだ仕組みが用意されている。それは一〇〇億円のローンをいくつかのグループ(トランシエ)に分割して、下位のグループに対しては販売価格を安くする代わりに、繰上返済された部分をそのクループに優先的に負担してもらう。それでも足りないときは、次のグループに割り当てる。そして上位のグループに対しては、価格は高いが繰上返済の影響をほとんど受けないようにする、といった仕組みである。