株主重視の経営を行うことが肝要

TCIは2007年6月の株主総会で期末配当を30円から100円に上げる株主提案を行いましたが、持合株主に阻まれて、3割強の賛成しか得られませんでした。増配余力があるキャッシュリッチ企業なら、ほかにいくらでも上場企業があるのに、政治的に難しい企業をターゲットにしてしまった不幸がありました。電源開発が2008年7月に、簡易株式分割で、100%子会社のJPリソーシズから一部事業を分割し、本体に取り込む案を発表したのに対して、TCIは反対表明し、電源開発株の買取請求を行って、日本から撤退しました。

アクティビストーファンドの投資対象にならないために。アクティビストーファンドの活動は低下していますが、歴史を振り返ると、将来的にアクティビストーファンドが再び活発化してくる可能性があります。アクティビストーファンドの投資対象になる企業には、何らかの共通点があるといえます。アクティビスト・ファンドだけでなく、割安株に投資するバリューファンドも大株主になっているケースが少なくありません。TOBの際には、バリューファンドがキャスティングボートを握ることがあります。

一般に大手投資家はお互いにパフォーマンスを競う間柄ですので、投資対象を相談して選ぶことはありませんが、割安株を自然に選んでいくと、麻雀でいう「持ち持ちの関係」になってしまうことがあるようです。大量保有報告書で事実関係を見ると、昭栄に対しては村上ファンドが初のTOBに失敗した後も、2004年に米国の有名バリューファンドのアーノルドーアンドーエスーブレイクロウダー・アドバイザーズが再び大量保有報告書を出しました。ニッポン放送の場合では、2004年時点で村上ファンド以外に、米国の有名バリューファンドのサウスイースタンーアセットーマネジメントも大株主でした。日清食品に買収された明星食品についても、2004年時点ではスティールーパートナーズだけでなく、村上ファンド大量保有報告書を出していました。

最終的にスティールーパートナーズに経営権を握られたアデランスホールディングスでは、2007年時点でスティールーパートナーズ以外に、米国西海岸の有名なバリューファンドのドッチ&コックスも大株主でした。アクティビストーファンドも、4000社近くある上場企業の中から投資対象を選ぶ際には、最初に財務指標を使ったスクリーニングを行うことが多くなっています。単純なPBRから、保有する金融資産や不動産(時価ペース)の株式時価総額に対する比率、退職給付債務などの隠れ債務がないか、安定株主はいるかなどが、定量的なスクリーニングの条件になります。アクティビストーファンドは大きくても運用資産は数千億円程度ですので、時価総額が1兆円を超えるような大型株は投資対象とならず、中小型株が投資対象になります。

経営者はしっかりしているか、社内の内紛はないか、メインバンクを含めた持合株主はどれほどいるかなどの定性情報も重要な判断材料です。もしアクティビストーファンドが株式を売却することを望んでも、他の投資家にとって、その投資対象が魅力的でなければ、自ら市場で投げ売りせざるをえなくなります。アクティビストーファンドは、他のバリュー投資家にとっても魅力的な投資対象にいち早く投資することを目的としています。アクティビストーフアンドの投資対象になるような企業は、どこかに隙がある企業といわざるをえません。立派な経営をしている大手の事業会社は、他の事業会社の買収のターゲットになることはあっても、アクティビストーファンドの投資対象になることはありません。普段からアクティビストーファンドの投資対象にならないような株主重視の経営を行うことが肝要です。