企業が仲立ち役を務める夫婦の絆

「日本人は表現力に乏しく、いわゆるお喋り下手だから、つい夫婦も黙りがちになってしまう。お互いにわかっているはずだと独り合点し、意見に少々のズレがあっても黙認してしまう。それをさらに増長しているのが、テレビである。夫婦で見ていると、お互いに会話をしているような錯覚に陥ってしまう。テレビは夫婦のかすがいである」「結婚当初から仕事に追われる日々で、休日ですら夫婦で外出することはまれだった。年に二、三回は一緒に旅行でもしていたら、もう少し理解を深めあえたものをと後悔している。お互いの立場を尊重してコミュニケーションを図ることがいかに大切か、いま頃になって気がついた。現在方向転換に努力している最中である」

妻との関係を中心に見てきたが、子どもとのコミュニケーションはどのようになっているのだろうか。旭化成工業や東京ガスなどの企業で組織する「共働き家族研究会」がまとめた「家族コミュニケーションの状況とそのあり方に関する調査」(一九九一年)によると、家族のなかで父子間の会話が全体的に少ない傾向が見られたという。例えば「夕食後のくつろぎの時」は、一日のうちでも家族間の会話が最も活発なひとときだ。では一週間のうちで、同時間帯に父子間で会話が行われるのは何日くらいかといえば、一・七日である。

父親の帰宅時間が遅いなどの事情はあるにせよ、母子間の場合(六・〇日)に比べればだいぶ少ない。朝食時(父子間三・三日、母子間六・〇日)、夕食時(同三・八日、六・三日)も同じような傾向だ。しかも普段、子どもとの会話が不足している父親ほど、どうやらしつけなどに口やかましい傾向があるようだ。図は家族間の団巣が十分な家庭、および不十分な家庭では、父子間の会話の中身がどのように違うのかを見たものである。不十分な家庭では、しつけの話題が十分な家庭を上まわっており、日頃コミュニケーションが図られていないだけに、どうしても子どもへの文句・注文が多くなりがちな様子がうかがえる。子どもとの会話でしつけの話題が目につくようになったら、父と子の間にコミュニケーション不足が起きつつあることを示す注意信号のようなものである。

また普段の生活のなかで父親の影が薄いだけに、子どもたちは悩み事があっても父親に相談しようとはしない。図は悩み事の相談相手に誰を選んでいるのかを、共働きか否かで分類したものだが、母親の場合は仕事を持つ持たないにかかわらず、「友だち」の次に相談相手として信頼を置かれている。ちなみに母親を相談相手とする傾向は小学生ほど強く、六割に達する。中学こ局校と成長するにつれ、友だちに相談する傾向が強まるが、「父親」という答えは、小学・中学・高校と各ステージ別に見てもきわめて少ない。これは現代の家族関係が、母親中心という形で成り立っていることを示すものであろう。

どう家族との会話を持つたらいいか、まずそのあたりから、父親たちは家庭科の勉強を始める必要がある。夫婦の日や結婚記念日休暇を創設する動きが、企業内で出始めている。開発センターが主唱しているもので、毎年一一月二二日を語呂合わせで夫婦の日とし、たまには夫婦間でじっくり対話の時間を持ったらどうかと呼びかけている。それに呼応する形でデパートや家電メーカーなども、夫婦でワインを楽しもうとか、食器洗い機を購入して夫婦でくつろげる時間を作ろうといった形で、さまざまなキャンペーンが繰り広げられている。