新しい国防案

それではこのような人たちは、なぜ日米間に戦争を予想するのであるか。その原因は、日本のとめどもない経済進出にある。ちょうど五〇年前に日本がとめどもなく武力進出し、それが遂に日米戦争に発展したように、このようなとめどもない経済進出を止めるためにアメリカは武力を発動させると、これらの人は考えている。私自身は、経済進出は武力発動を正当化するのに充分でないから、経済進出が他の重大事件の引き金とならない限り、戦争は生じないと考えるが、にもかかわらず、とめどもない経済進出を停止ないし後退させない限り、単にアメリカのみでなく、すべての国の不興を買い、日本が袋だたきになるのは事実であろう。

だから産業規模をどの程度まで後退させるかを明示しない限り、アメリカの日本不信は続くであろう。先進諸国の中でアメリカの状況と日本のそれが対極的に違っていることはすでに見た。この状態を改善することなく、日本が今まで通りの経済進出を続けるなら、アメリカは日本との安保条約を破棄し、中国、韓国、ソ連との間に、日本を目標にした経済的安保条約ないし日本ボイコッ卜条約を締結するだろう。日本は一刻も早く、経済進出をどこで止め、どこまで引き下がるかの具体案を示すべきであり、さもなくば日米関係はますます悪化するだろう。

アメリカが一たび日本封鎖を決意すれば、そのあとではどのような譲歩も受け入れないであろう。このことは第二次大戦前夜に日本が経験したことである。日本が野村大使をアメリカに送った時には、アメリカは戦争を決意していた。こういう段階ではどのような日本の提案も無視される。アメリカは自分の要求を一歩も退かせないし、日本はそれを全部受け入れるか、最後の手段である戦争に訴えるしかない。このことを交渉中に悟らなかった野村大使以下の駐米大使館員は馬鹿だったと言う他ないが、このアメリカのやり方は、その後も変わっていない。

第二次大戦の終戦に際して、ドイツも日本も条件付降伏を希望した。しかし米英はそれを一蹴した。条件付降伏に固執したドイツは徹底的に粉砕され、日本は天皇制維持を主張した昭和天皇以下を、外務省が胡麻化して(周知のように。連合国回答をあいまいに翻訳して)降伏したから、国は救われた。アメリカが決心した後ではダメであるというこの法則が今でも生きていることは、湾岸戦争時のアメリカの強硬な態度が証明している

湾岸戦争で日本が出兵できなかったことから、憲法を改正して出兵できるようにせよ、との主張が日本で起こっている。しかしこのような案は、日本を安全にするよりも危険にさらすであろう。関・森嶋論争では、関氏および猪木氏が(アメリカが要求する程度に)自衛隊を拡充せよと主張したが、私は自衛隊はこれ以上拡大すべきでなく、その代わりGNPの二・五%を「ソフトウェアによる国防費」にあて、その分を経済的に困っている国、先進国、途上国、社会主義国を問わずに廻し、彼らに援助ないし協力の手を差し延べるべきだと主張した。

しかし現実には、日本政府はこのような国防案を採用しなかった。私がこの案を主張した当時から、GNPは三倍近くに増えているから、防衛費も約三倍に増えており、自衛隊は世界でも三、四位の大軍になっている。にもかかわらず彼らは出兵できない。こういう状態を外国人の眼から見れば、日本は無気力なエゴイストに映るし、日本人にとっても金の無駄遣いである。憲法を改正して、国連の要請があれば海外派兵できるようにすべきだ、という人もでてくるに違いない。