未来に賭ける

会社に戦略設計図があるかどうかの究極のテストには、グラフと表でいっぱいの分厚いノートはいらない。究極のテストは、適当な二五人の上級管理者に「未来の産業は今とどう違っているだろうか」と尋ねて、その答えを比較してみることである。あなたの会社でもやってみるとよい。二〇人程度の上級管理者たちに一週間から一ヵ月程度の時間を与えて、最も重要だと思われる産業の変化について一ページ程度でまとめてもらう。産業という言葉が何を意味するのか、未来とはどのくらい先のことを指すのかを説明してはいけない。

回答が集まったら簡単に分析してみよう。まず、未来という言葉を管理職はどう解釈しただろうか。来年、五年後、それとも一〇年後か。言い方を変えれば、あなたの会社の管理職のヘッドライトはどのくらい先まで照らしているのかということである。彼らはどれほど未来を展望しているだろうか。第二に、彼らの未来図は、どんな未来をとらえているだろうか。産業そのもの、および産業のあり方を変えるかもしれない力を見るときの彼らの視野は、どのくらい広いだろうか。既存の市場だけを近視眼的に見ているのだろうか、それとも新しいビジネスチャンスまで広く見えているのだろうか。

第三に、彼らの未来図は他社とどのくらい違うだろうか。競合他社が驚愕するほどすごいのだろうか。それともあくびが出てしまうほど退屈なのだろうか。第四に、未来が現在とどれほど異なるかについて、管理職の間でどれだけコンセンサスがとれているだろうか。十分なコンセンサスがなければ、あちこちでおカネを使っても結局のところはどこにも本腰は入っていないという事態に陥る。第五に、あらゆる産業の変化の意味が十分詳細に検討され、短期的には何をしなければならないのか明確になっているだろうか。

未来に備えて今年度、具体的に行うことについて全員の意見は一致しているだろうか。企業力の獲得戦略と、ビジネスチャンスへの接近戦略は適切だろうか。未来への展望、広い視野、他社との違い、コンセンサス、そして実行プラン。これらが、会社が本当に戦略設計図を持っているかどうか、本当に自らの運命の舵を握っているのかどうかを判断する基準である。

現在と未来の顧客のために、グローバル化、知識創造、そして個人化に関する力を利用しようとEDSは真剣に考えている。同様にNECはコンピューターとコミュニケーションを統合しようと懸命である。しかし、何かに賭けることは必ずしも、多大な投資や、会社を危険にさらしてしまうようなリスクを意味するわけではない。一九七〇年代の末、IBMは衛星ビジネスーシステムのベンチャーに失敗して大慌てした。ところが八〇年代の終わりから九〇年代の初めにかけて、ロルム社の売却でも同じ過ちを繰り返してしまった。