資本注入策は市場原理の安易な放棄

金融システム安定化に関して、銀行の自己資本充実策がとられた。その理由として、自己資本比率の制約が原因となって金融機関が「貸し渋り」を行なっており、そ牡が経済停滞の原因になつているということがあげられた。だから、自己資本を増やすば貸し出しが増え、経済活動も活発化するだろうというわげだ。

しかし、ここにはいくつかの問題がある。第一は、本当に銀行の貸し出しを増やす必要があるかどうかだ。企業に資金を供給する手段としては、これ以外のものもある。すでに述べたように、ベンチャー企業などの新しい企業に対しては、店頭市場などの直接金融を充実させる必要かおる。貸し出しだけを重視するのは、従来の日本型企業金融を温存しようというものだ。

貸し出しだけに問題を絞っても、優良な貸出先とそうでないところを区別する必要がある。優良で成長が見込まれる企業に対する貸し出しも減少しているのかどうかは、明らかでない。金融機関が貸出先の選別を進めているのであれば、むしろ望ましいことだ。不良企業に対する貸し出しを増やせば、旧来の経済構造が温存される。それは、日本経済の構造変化をm害するだろう。これは、長期的にみれば、日本経済に大きなマイナスをもたらす。

また、かりに信用収縮対策が必要であるとしても、資本注入でそれが実現できる保証はない。個々の金融機関がいかなる行動を取るかは、その金融機関に任されているからである。以上の問題のほかに、経営が悪化した金融機関を対象として資本注入を行なえば、本来なら市場から退場させるべき銀行を延命させ、不良銀行を温存させるという問題もある。これは、「護送船団」の温存にほかならない。これまでとられてきた「金融再生策」は、「再生」というよりは、むしろ、伝統的な間接金融体制を今後も継続させようとするものだったといわざるをえない。