経済再生のための雇用構造の改革

たとえば、タクシーの台数規制は、実態的にはタクシー業者を保護するための需給調整措置だろうが、「利用者の安全のために必要」という理由をつければ、「社会的規制」ということになってしまうだろう。本来は、問題となる事項について、市場メカニズムが適切な機能を果たしているか否かを基準に、規制の是非を考えるべきなのである。

注意すべ含第二点は、規制緩和だけで経済が活性化するわけではないことだ。新しい事業活動へのエネルギーが存在しているにもかかわらず、それが規制で押さえられている場合には、規制緩和で潜在エネルギーが現実のものとなり、経済が活性化するだろう。しかし、日本の現状をみると、潜在的なエネルギーさえも枯渇してしまっている場合が多いと思われる。こうした場合には、潜在的エネルギーそのものを育てるような政策が必要だ。そのためには、以下で述べるような雇用制度、金融制度、そして税制などに関する改革が必要である。これらは、きわめて難しい課題である。しかし、日本は、こうした基本的な制度に手をつけなげれば、将来への見通しが開けない状態に追い込まれていると思われる。

先で述べたように、産業の中心は、大量生産の製造業から、情報通信技術を使うソフト産業に向けて急速に変化しつっある。産業構造転換は、現存企業の枠内でも、事業の多様化などで、ある程度は実現できるだろう。しかし、本格的な転換のためには、既存の企業体系では限度があり、労働者の企業間移動が必要になる。

退出せざるをえない企業や産業からは、労働力が放出されることになる。経済全体としては新たに登場する企業が雇用を吸収するにしても、その過程で労働需給のミスマッチは避げられない。したがって、産業構造の調整は、雇用調整という摩擦をともなう。ところが、終身雇用・年功序列が支配的で、企業が雇用者の利益を最優先する構造になっており、労働組合も企業別に組織されている日本では、これは、きわめて難しい問題を提起する。労働者の移動はきわめて難しい課題である。会社中心主義が、現在の経済構造を変革し、新しいリーディンダーインダストリーを生み出すうえでの大きな制約となっているのだ。

また、先で述べたように、新しい産業では、技術革新のスピードが非常に速い。したがって、小回りのきく小企業の活躍が必要だ。実際、米国でこの分野の技術革新を先導している企業の多くが、新しく誕生したベンチャー企業だ。ところが、日本では、小企業の立ち遅れが目立つ。その背後には、企業を取り巻く制度の差がある。この状態を克服するために、新しい産業構造に向けての環境を整える必要かおる。経済構造の変化に応じて、企業を取り巻く制度を改革することが急務なのである。